アクリル酸ベンジル及びエチルの合成反応への適用
コンピュータと合成経路開発
  • 近年では、合成経路設計に情報化学的手法を用いた合成経路設計システムを,合成経路の創出に利用可能となっている。
  • 創出された合成経路の絞り込みが、分子軌道計算などの計算化学的手法を用いた反応解析によって効率的に行うことができる。
  • 近未来に,コンピュータのみを用いた合成経路開発が可能かもしれない。
概念の検証
計算化学と情報化学の融合が、合成経路開発に有効であることを検証する。
  • 計算と実験との比較
  • 有機合成化学者の興味は引かないかもしれないが,最初は比較的簡単な分子に適用
  • 対象は,アクリル酸ベンジルおよびエチル
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提案された合成経路
  • KOSPは数多くの,またTOSPは3つの合成経路を導出した.
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Favorskii rearrangement

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  • 8a(TS) は、9a(TS) に対して、7.3 kcal mol-1不安定。
  • sp2炭素による三員環構造を持つ9aは、非常に不安定な構造であり、単離することは不可能。
  • 以上の結果から、合成経路Aを用いて目的化合物を合成することは困難である。
  • 従って、この反応は実際の実験を行う必要はないと考えられる。
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Horner-Emmons 反応
  • TOSPはHornor-Emmons反応を使う合成経路を提案した.

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  • 活性化エネルギーは3.7 kcal mol-1と計算された。
  • 中間体11aはこの後、すみやかに分解し、目的化合物1aを与える。
  • 計算結果は,この方法で合成が可能であることを示している。

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  • 実験結果:実験を行ったところ,予想通り目的化合物が得られた.ただし,条件の最適化をしていないため,収率は47%であった。
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Eschenmoser 反応

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  • 活性化エネルギーは19.7 kcal mol-1と計算された。
  • 中間体20aはこの後、すみやかに分解し、目的化合物1aを与える。

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  • 計算結果は,この反応もターゲットを与えると予想した。
  • 実際の合成実験行ったところ、反応物4のエステル加水分解が優先された

カルボキシラートのハロゲン化アルキルへの SN2 反応

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  • 活性化エネルギーは7.6 kcal mol-1と計算された。

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  • 合成実験の結果

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収率の溶媒依存性の検討

  1. 21とEtOHの水素結合エネルギーは21とMeCNに比べて、2.6 kcal mol-1大きい。
  2. 生成したメタクリル酸アニオンとエタノールの水素結合が求核性を弱めるために、低い収率しか与えられなかったものと考えられる。

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結論
  • 目的化合物(アクリル酸エステル)は合成経路B、合成経路C、及び合成経路Dで合成可能である。合成経路Aでは副生成物の生成が優先する。
  • 合成経路B、及び合成経路Dにおいて、計算化学的手法の結果が実験的に得られた結果と一致した。この結果は計算化学的手法による合成経路の可能性の評価に有効性があることを示す。
  • 溶媒を含めた計算を行うことによって、溶媒の収率への影響の評価、及び最適な溶媒の選択が可能である。

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