クラウンエーテルの溶液中での構造(方法論の開発)
実験的背景
C.J.Pedersenは自ら合成した18-crown-6はK+と選択的に錯体を形成する.ことを見出した.その理由として,カチオンの大きさとクラウンエーテルの持つ空港の大きさの関係が注目された.しかしながら,Li+及びNa+に適した空港を有する12-crown-4と15-crown-5がそれぞれのイオンに対して必ずしも選択性を有さないことから,イオン-と空孔の大きさだけでは,クラウンエーテルの示すカチオン選択性を説明できない.
我々は,選択性には溶媒の効果が重要であることを既に示している(T. Yamabe, K. Hori, K. Akagi, K. Fukui: Stability of Crown Ether Complexes; An MO Theoretical Study. Tetrahedron, 35, 1065-1072, 1979).
築部らの実験とその解釈
- Li錯体に関して
- アセトニトリル中ではアミンアームとLiの相互作用:大
→アミンアームがLiに配位、又はごく近傍に存在 - メタノール中ではアミンアームとLiの相互作用:小
→アミンアームがLiから遠い位置に存在
- アセトニトリル中ではアミンアームとLiの相互作用:大
- Na錯体に関して
- .アセトニトリル中、メタノール中でもアミンアームとNaの相互作用:小
→アミンアームがNaから遠い位置に存在 - メタノール中でもクラウン環はNa+と相互作用している
- .アセトニトリル中、メタノール中でもアミンアームとNaの相互作用:小
これまでの計算の問題点と必要とされる計算
- 問題点
- Crown構造の有する柔軟性を評価していない。
- 溶媒効果の評価が完全ではない。
これらの効果を評価して初めて、溶媒中の選択性を理解することができる。
- 必要とされる計算
- 構造の柔軟性
分子のグローバルに最安定構造を求めると同時に、類似の安定性を有するコンフォメーションとの間のエネルギー差を求める。→ CONFLEXによる配座解析 - 溶媒効果
溶媒和エネル ギーを含めた計算を行う。
→ COSMO、SCRF計算(分子軌道計算)
構造によって、溶媒和エネルギーの大きさが異なるため、複数のコンフォメーションで評価する必要がある。
→ モンテカルロシミュレーション(自由エネルギー摂動法)
- 構造の柔軟性
溶媒と配座の両方の効果を考慮した計算方法の確立
手順1) Conflexによる配座発生と構造最適化
手順2) 精密な構造最適化(同一の構造の排除)
手順3) 標準偏差の計算
比較する2つの配座について、分子の中心を決定し、配座同士を重ね合わせ、原子間距離の標準偏差を算出し配座間の差違を数値化する。
手順5) 電荷計算(Gaussian03 RHF/6-31G* Merz-Singh-Kollman)
手順6) 差溶媒和自由エネルギー算出
12-crown-O3Nの水溶液中における安定構造
(12-crown-O3N)Li+錯体の水溶液中における安定構造
結論
クラウンエーテル及びそのアルカリイオン錯体の水溶液中での安定構造を推定する方法論の開発を行うことができた.