Pd錯体触媒を用いたアリルエステルのアシル化反応
解析対象反応について
- アシルシランはPd錯体触媒存在下アリルエステルの良いアシル化剤として働くことが報告されている。
- 辻らは、トリフルオロ酢酸アリルエステルおよび酢酸アリルエステルでPd触媒を用いた化学量論的反応を行った結果、前者がα、β-不飽和ケトンを与えるのに対し、後者は全くアシル化物を与えないことを見出した。
- 詳細な実験による検討が行われているにも関わらず、これらの反応機構は未だ解明されていない。
反応機構の推定
錯体の構造最適化を行うことにより,反応機構の推定を行った.
Pd錯体触媒を用いたアリルエステルのアシル化反応
計算方法
- 計算にはGaussian98プログラムを用いた.
- RHF/3-21G*レベルの計算で大まかに検討
- 得られた構造に対してB3LYP / LANL2DZレベルの計算により、詳細な機構の解析を行った。
TSの探索とエネルギーダイアグラム
結論
- 7(TS)は三角両錐様の構造を有し、Si-O結合がほぼ生成した後にSi-C結合が切れつつあるユニークな構造をとっている.
- この段階の活性化エネルギー(Ea)は7a(TS)で27.7、7b(TS)で36.7kcal mol-1と計算された.
- 生成した7はより安定である炭素配位した8に構造が変化し、その後、還元的脱離して9を与える.
- この段階のEaは9aおよび9bでそれぞれ23.7、21.5 kcal mol-1と計算された.
- 以上の一連の計算により、上図に示した触媒サイクルの存在が明らかとなった.
- トリフルオロ酢酸および酢酸アリルエステルの反応性の違いには、5から6へ配位構造が変化する時に生成するPd-O=C結合の安定性が大きく影響する.