MO/MC法を用いた酢酸メチル加水分解反応の溶媒効果解析
- 溶媒効果を考慮した化学反応解析
- MO計算やDFT計算などの量子化学計算により様々な化学反応解析が可能となってきている
絶対零度、真空中における反応解析 - 実際の化学反応は溶媒中で行われる
水、アルコール、アセトニトリル、THF - 実験に即した形で反応解析を行うためには、溶媒効果を考慮した計算を行う必要がある
MD法,SCRF法により溶媒の効果を評価することが可能
- 本研究では,MO/MC法を用いて溶媒効果の評価を行う.
- MO計算やDFT計算などの量子化学計算により様々な化学反応解析が可能となってきている
- MO/MC法とは
- 分子軌道(MO)計算を用いたモンテカルロ(MC)シミュレーション
- 従来のLennard-Jones及びCoulombicポテンシャルではなく、MO計算(半経験的、非経験的、DFT)によりエネルギーを計算する
- 溶媒和自由エネルギーを量子化学的に計算することが可能(full quantum)
- 数十~数百万回のMO計算を必要とするため、計算時間が膨大
- 本研究では、比較的計算時間の短いPM3,AM1法を用いた
- MO/MC法計算プログラム
- Fortran90及びC++言語を用いて、MOPAC2000(半経験的計算)及びGaussian03(非経験的計算)に組み込まれて動作するように開発
- MCシミュレーションで用いられる擬似乱数にはMersenne Twisterアルゴリズムを採用
- MO/MC法で計算対象とする構造
- 溶質として、真空中でのREACTANT、TS、PRODUCT構造(PM3,AM1及びB3LYP/6-31+G*)を用い、液滴クラスタの中心に配置
- 液滴クラスタの半径(水の蒸発を禁止する半径)を、溶質分子を溶媒分子が包み込める大きさ(6.5Å)に設定
- クラスタの球体積から、溶質(=TS)の共有結合体積を減じた体積、及び水の密度(18g/cm3)を考慮して配置する水分子数(34分子)を決定
- 溶質分子及び他の溶媒分子と重なり合わないように、溶媒分子(水分子)をランダムに配置
MO/MC法で計算できるエネルギー(溶媒和自由エネルギーの算出)
メトロポリスサンプリング
シミュレーションの条件
- 溶媒和自由エネルギーをPM3法及びAM1法を用いて計算
- 温度298.15(K),
- 幾何構造の変化:最大移動距離=0.02(Å), 最大回転角度=0.03(rad)
- 遷移確率は概ね0.4
MO/MC(PM3)で得られたスナップシット
- 溶質分子の周りに水分子が配置されている形
- 大きな構造の崩れは見られない
- その他のシミュレーションも同じような最終構造が得られ
酢酸メチルのアルカリ加水分解反応の 水溶媒中でのエネルギーダイアグラム
考察
- 実験的事実より
- 本反応の60%メタノール溶媒中での活性化エネルギーは、11.5kcal mol-1 と実測されている。[JCS, 1936, 1361]
- 生成物は四面体型(TD)中間体で反応物より不安定であることが分かっている。
- REACTANTは、OH-が遊離した形であり、水溶媒との強い相互作用による安定化が予測される。
- PRODUCTは、TD間体で、水溶媒との相互作用の弱まりから不安定化が予測される。
- 真空中での計算結果
- 真空中におけるAM1,PM3法計算結果では、生成物が非常に安定である。
- B3LYP/6-31+G*計算結果では、生成物が不安定であるが、活性化エネルギーが低い。
- MO/MC(AM1)は、真空中でのエネルギーより上昇し、TS及び生成物が不安定化されたことから、補正が効いている。
- MO/MC(PM3)は、TS及び生成物の方が溶媒との相互作用が強く出ており、予測に反する。PM3法が水素結合エネルギーを強く見積りすぎているのが一因であると考えられる。
- MO/MC(PM3//DFT)は、生成物が不安定化しているという良い傾向が見られるが、TSよりも不安定化している。
- MO/MC(AM1//DFT)は、全体的にエネルギーが高く見積もられてしまってはいるが、定性的に非常に良い傾向を示している。
- 水溶媒中では、 MO/MC(AM1//DFT)レベルの計算を行うことで、定性的に良い結果が得られると考えられる。
まとめ
- MO/MC法による溶媒効果の見積もり
- 溶媒中でのエネルギーを定性的に見積もることが出来た。(特に水溶媒中ではMO/MC(AM1//DFT)レベルの計算が良い)
- 今後は、IRC等の反応の構造変化を追う形でシミュレーションを行い、反応の溶媒和エネルギー曲線を描く。
- 他反応、水以外の溶媒(有機溶媒等)に応用を行う。
- 最終的には、ab initio MO/MCを行いたい。
- 多大なる計算時間
- 現在、121原子、2,000,000ステップの計算に、Intel Pentium D 3.2GHzのマシンで約670000秒(約8日間)掛かっている。
- 今後は、MO/MC法の並列化、シミュレーションステップ数の減少などを行い、計算時間の短縮を図りたい。