テクニカルノート(計算実例集)
イオン化ポテンシャル・電子親和力
イオン化ポテンシャル(IP)は、中性状態の分子から電子を除去してイオン化するためのエネルギー、電子親和力(EA)は、中性状態の分子に電子を挿入してイオン化するためのエネルギーを表し、分子の導電性などを調べるための指標として広く利用されています。
量子化学計算では、イオン化ポテンシャル/電子親和力に対し、中性状態で最適化された分子構造に対して電子を除去又は挿入した際のエネルギーを計算することで、IP/EAの理論値を計算することができます。
量子化学計算では、イオン化ポテンシャル/電子親和力に対し、中性状態で最適化された分子構造に対して電子を除去又は挿入した際のエネルギーを計算することで、IP/EAの理論値を計算することができます。
1. IP/EAの計算方法

1.1. HOMO/LUMOの分子軌道エネルギーからの推定
中性状態で最適化を行った分子構造の分子軌道エネルギーを計算し、HOMO(最高被占軌道)とLUMO(最低空軌道)のエネルギーギャップをIP/EAの値として採用する方法です。
この方法は非常に簡便である一方、中性状態とイオン状態での分子の軌道エネルギーが変わらないことを前提としているため、あまり精度の良い方法ではありません。しかしながら、大量の化合物に対する実測値との相関やラフスクリーニングなどには有効にお使い頂けます。
中性状態で最適化を行った分子構造の分子軌道エネルギーを計算し、HOMO(最高被占軌道)とLUMO(最低空軌道)のエネルギーギャップをIP/EAの値として採用する方法です。
この方法は非常に簡便である一方、中性状態とイオン状態での分子の軌道エネルギーが変わらないことを前提としているため、あまり精度の良い方法ではありません。しかしながら、大量の化合物に対する実測値との相関やラフスクリーニングなどには有効にお使い頂けます。
1.2. ΔSCF法
中性状態の分子、電子を除去したカチオン(ラジカル)状態、電子を挿入したアニオン(ラジカル)状態との全エネルギー差分を計算し、IP/EAを計算する方法で、以下の式により計算します。
この方法では、IP/EAを精度良く求めることができる他、イオン状態で構造最適化計算を実施すれば、構造緩和を伴う断熱遷移エネルギーの計算も可能です。適宜、ゼロ点エネルギー補正等を行いエネルギーの算出を行います。
中性状態の分子、電子を除去したカチオン(ラジカル)状態、電子を挿入したアニオン(ラジカル)状態との全エネルギー差分を計算し、IP/EAを計算する方法で、以下の式により計算します。
\( I_P = E^{カチオン(ラジカル)} - E^{中性} \)
\( E_A = E^{中性} - E^{アニオン(ラジカル)} \)
\( E_A = E^{中性} - E^{アニオン(ラジカル)} \)
この方法では、IP/EAを精度良く求めることができる他、イオン状態で構造最適化計算を実施すれば、構造緩和を伴う断熱遷移エネルギーの計算も可能です。適宜、ゼロ点エネルギー補正等を行いエネルギーの算出を行います。
2. 代表的な工業物質に対するIPの計算と実測値との相関
代表的な33個の工業物質に対して、ΔSCF法により、垂直IP/EAの計算を行い、実測値との相関を実施しました。本計算では、相関係数(R2)が0.905と実測値との良い相関が得られていることが分かります。
B3LYP法は密度汎関数理論計算法、MP2法は、2電子励起由来の電子相関を取り込んだ計算方法になります。

計算対象とした33の工業物質
代表的な33個の工業物質に対して、ΔSCF法により、垂直IP/EAの計算を行い、実測値との相関を実施しました。本計算では、相関係数(R2)が0.905と実測値との良い相関が得られていることが分かります。
B3LYP法は密度汎関数理論計算法、MP2法は、2電子励起由来の電子相関を取り込んだ計算方法になります。

計算対象とした33の工業物質
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計算結果一覧表( B3LYP/6-31+G(d) )
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3. 高分子におけるIPの計算
高分子化合物に対しても、低分子化合物と同様に、IP/EAの理論値を計算することができます。高分子の場合は、長く続く繰り返し構造全てを含めて計算することはできませんので、いくつかのモノマーユニットで構成されたオリゴマーに対して計算を行いながら外挿することで精度良く算出することができます。外挿法には、1/n外挿法、exp外挿法などが知られています。
特に、ポリアレンやポリチオフェンなどの、π電子による価電子帯を形成している高分子の場合は、上記の外挿法による算出が重要になります。
下記の例では、ポリアレン及びポリチオフェンに対して、末端がMe基で置換された ユニット数(n)=1~9 までの構造に対してIP/EAの計算を実施しています。
ポリチオフェンの構造最適化では、チオフェン環は平面状に配置されました。ポリアレンでは、フェニル環が約38°(2面角)歪んだ形で配置された構造が得られました。
特に、ポリアレンやポリチオフェンなどの、π電子による価電子帯を形成している高分子の場合は、上記の外挿法による算出が重要になります。
下記の例では、ポリアレン及びポリチオフェンに対して、末端がMe基で置換された ユニット数(n)=1~9 までの構造に対してIP/EAの計算を実施しています。
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ポリチオフェンの構造最適化では、チオフェン環は平面状に配置されました。ポリアレンでは、フェニル環が約38°(2面角)歪んだ形で配置された構造が得られました。
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計算結果一覧表( B3LYP/6-31+G(d) )
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