遷移状態データベース(TSDB)の開発
遷移状態データベースとは
- 計算化学と情報化学を融合した反応解析をアシストするシステムで、遷移状態ライブラリとそれを利用する一連のプログラム群
- 138反応/1346遷移状態の情報(2008年9月30日現在)
- 構造検索を可能とするシステムを実装した
- TSDBスクリーニングが可能となった
- 副反応予測の実現できるめどがついた
- 計算化学的に求められた反応機構情報を集積し、容易に再利用できるようにしたデータベース
- 新たな計算の大幅な時間短縮が可能となった
- TSDBのコンセプト
- TSDBは、計算化学的に求められた反応の遷移状態の情報をデータベース化したものである。
- 情報化学的に得られた合成経路の容易さのランキングを行い、合成経路の絞込みの時間を短縮する最も有効な手段である。
- 堀憲次,山口徹,岡野克彦,「計算化学と情報化学を融合した合成経路開発」(2004年JCAC論文賞),J. Comp. Aided Chem., 2004, 5, 26-34(この論文はここからダウンロードできます)。この論文では、下記の論文(J. Comp. Aided Chem., 2001, 2, 37-44)から進展した内容をまとめています。
(概要)目的化合物の新規合成経路を創生する手段として、合成経路設計システムが既に実用化されている。このようなシステムは、一般的に複数の合成経路を提案するが、多段階で反応を考えた場合、その合成経路の数は級数的に増加し、経験豊かな合成化学者でもその選択に迷う場合がありえる。一方、提案された合成経路の存在の有無は、理論計算を用いた反応解析により、実験を行うことなしに判断することができる。さらに溶媒効果や置換基効果を考慮した計算を行えば、提案された合成経路の容易さも評価できると考えられる。これは計算化学を情報化学的に得られた未知の合成反応に適用することにより、それらの合成経路のランクづけが可能であることを示している。しかしながら、両者を融合した合成経路開発は、その有用性にもかかわらずこれまでほとんど行われていない。本研究では計算化学と情報化学を融合して、実験化学者が合成経路設計システムを利用して新たな合成経路を開発する時に有用な遷移状態データベースとその周辺プログラム、将来性について述べる。 - 堀憲次,「計算化学と情報化学を融合した合成経路開発システム」,ファインケミカル、2003、32、14-23
(概要)合成経路設計システムは複数の合成経路を提案するが、多段階反応に用いると合成経路の数は級数的に増加し、経験豊かな合成化学者でもその選択に迷う場合がありえる。提案された合成経路の存在の有無は、理論計算を用いた反応解析により、実験を行うことなしに判断することができる。本研究では、実験化学者が合成経路設計システムを有効に利用することを可能とする、計算化学を利用した遷移状態データベースの開発について詳述した。 - 堀 憲次, 名越 康浩, 山崎 鈴子,「遷移状態探索システムの構築」(2000年JCAC論文賞),J. Compt. Aided. Chem., 2000, 1, 89-97(この論文はここからダウンロードできます)
(概要)これまで経験に基づいて行われてきた化合物の新規合成経路を創生する手段として、合成経路設計システムが実用的となりつつある。このようなシステムは、自身が有するデータベースと推論ルーチンにより合成経路を与える。しかしながら、一般的に複数の合成経路を提案するのみで、どの経路を選択するかの最終判断は、合成を行う個々の化学者に委ねられる。もしも提案された合成経路に含まれる反応の容易さが、計算化学的手法により判断できれば、だれにでも経路のランクづけが可能となる。遷移状態探索と極限的反応座標計算を十分に活用すれば、そのことは可能であるが、結果を得るために長い時間が必要とされる。本研究では、遷移状態ライブラリを構築し、合成経路の可能性を見極めるために必要な時間を短縮するシステム「遷移状態データベース」の概要および、それ利用した合成経路のランクづけの方法について述べる。
TSDBウィンドウ、Webインターフェース
- TSDBはIEやFireFoxなどの通常のブラウザを用いて、ネットを介して利用することができる.
- TSDBは反応名、生成物名、及び化学構造を用いて検索することができる.
- 検索結果を、反応式やエネルギーダイアグラムを用いて表示可能.
化学構造を用いた検索システム
- TSの情報の検索は、Webインターフェイスを介し、Molファイルを利用することで化学構造を用いることができる。
- 検索エンジンには、オープンソースソフトウェアを用いている。
- データベース:PostgreSQL
- pgchem::tigress:ドイツのDr.Ernst-Georg Schmidが開発。
- 入力した構造を、1700個の構造から探し出すために必要なCPU時間は1秒以下(Intel Core2 2.4GHzの計算機)
構造検索のパターン
- 完全または部分構造検索
- 谷本係数を用いた類似構造検索が可能
- MDLのmolまたはSMILES書式で入力
- 副反応や副生成物の予測
遷移状態情報の表示
- 半経験的、非経験的MO計算及び密度汎関数理論(DFT)計算結果を表示.
- TS情報の3D構造とエネルギーダイアグラムを表示する。また、IRCアニメーションも見ることができる.
- 必要な理論計算を行うために、反応物、TSおよび生成物のデカルト座標をダウンロードすることができる.
- TS_Searchプログラムの入力とすることが可能.