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テクニカルノート(計算実例集)
NMRスペクトル(核磁気共鳴スペクトル)
 NMRスペクトルは、磁場の下に置かれた測定対象物質に対しパルス状のラジオ波を照射し、原子核が吸収した波長を測定することにより得られるスペクトルです。NMRの吸収波長は、各化合物に含まれるH,C原子等の各原子のシグナルに由来し、NMRピークを帰属することにより化合物構造の同定が可能となります。
 量子化学計算では、化合物の最適化された構造に対して、絶対遮蔽定数を計算し、基準物質の絶対遮蔽定数からの差を求めることで化学シフトを得ることができます。また、一般的な、1H-NMR, 13C-NMR の場合の基準物質はテトラメチルシラン (TMS)、9F-NMRの場合の基準物質はトリクロロフルオロメタン(CFCl3)です。
   
1. NMRスペクトルの計算例と測定結果の比較
 下記に、量子化学計算によりNMRスペクトルの算出を行った計算例を示します。

3-bromo-1-propene (CAS番号:106-95-6)

最適化構造(B3LYP/6-31G(d))

NMRスペクトル(測定)
SDBSWeb : http://sdbs.db.aist.go.jp (National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 06/2020)

NMRスペクトル(理論計算) [PDFファイル]
計算レベル:mPW1PW91/6-311+G(2d,p)
溶媒効果:scrf法(CDCl3)
AssignShift(eq)Shift(cal)
A5.300 ppm5.253 ppm
B5.150 ppm5.099 ppm
C6.015 ppm5.982 ppm
D3.934 ppm3.716 ppm

Ethyl acetate (CAS番号:141-78-6)

2,2-Difluoroethanol

最適化構造(B3LYP/6-31G(d))

NMRスペクトル(測定)
SDBSWeb : http://sdbs.db.aist.go.jp (National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 06/2020)

NMRスペクトル(理論計算) [PDFファイル]
計算レベル:mPW1PW91/6-311+G(2d,p)
溶媒効果:scrf法(CDCl3)
AssignShift(eq)Shift(cal)
A2.038 ppm1.847 ppm
B4.119 ppm3.688 ppm
C1.260 ppm1.126 ppm


2. スケーリングファクター
 量子化学計算により求められたNMRスペクトルは、理論計算レベルによる誤差を修正するため、波数(エネルギー)にスケーリングファクターを乗ずることで、より実測値に近い値を得ることができます。スケーリングファクターは代表的なものでは以下が知られています。

計算レベルスケーリングファクター
1H13C
構造最適化計算NMR計算slopeinterceptslopeintercept
B3LYP/6-31+G(d,p)mPW1PW91/6-311+G(2d,p)-1.093631.8018-1.0533186.5242
B3LYP/6-311+G(2d,p)mPW1PW91/6-311+G(2d,p)-1.093331.9088-1.0449187.1018
B3LYP/6-31+G(d,p)PBE0/6-311+G(2d,p)-1.095831.7532-1.0533187.3123
B3LYP/6-311+G(2d,p)PBE0/6-311+G(2d,p)-1.095631.8603-1.0450187.8859
M062X/6-31+G(d,p)mPW1PW91/6-311+G(2d,p)-1.093831.8723-1.0446186.7246

 各レベルに対するより詳しい数値は、論文やCHESHIRE CCATなどを参照して下さい。
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