光延反応を用いたクロマン骨格化合物の合成に関する理論的解析

2011年5月15日
光延反応を用いたクロマン骨格化合物の合成に関する理論的解析

 光延反応は、アゾジカルボン酸エステル(DEAD)とトリフェニルホスフィン(PPh3)を用いてアルコールと酸を脱水縮合させる反応として知られている。アルコールの立体反転と伴うことや、穏和な条件で反応が進行することなどから、有機合成の有用な反応として広く利用されている。
 今回は、より抽出される薬理活性天然物である2,6-dimethyl chroman-4-one(1)を、光延反応により合成する経路について、密度汎関数理論(DFT)計算を用いた反応解析を行い、合成可否及び副生成物の予測を行った。

  • 計算対象の光延反応ルート chroman_cheme

 分子内にアルコール及びフェノールが共存する場合、一般文献では光延反応はPathBにより進行すると記載されている。しかしながら本解析では、アルコールから水素が引き抜かれたPathBの中間体15は存在せず、反応はまず活性種によりフェノールの水素が引き抜かれるPathAにより進行すると計算された。その後アルコールにPPh3が付加した1611によるフェノール水素の再度の引き抜きを伴い、中間体17を生成した後、安定な主生成物として1を、副産物として4を与えると予想された。

  • 反応解析計算結果から得られたエネルギーダイアグラム (kcal mol-1) chroman_diagram

本解析の結果、本反応は若干の副産物の生成を伴うものの、目的化合物1が合成可能であると予測された。実際に、THF溶媒0℃条件下で、主生成物1を81%、副生成物4を7%の収率で得ることができ、理論計算による合成予測の結果と一致しその有用性が示された。
 また、反応エネルギー、遷移状態構造、及び中間体の立体構造から考察することにより、光延反応全体の反応機構を明らかにすると伴に、律速段階及び副産物生成のメカニズムも解明された。

  • 遷移状態構造の可視化

    chroman_3D
  • 計算方法:計算レベルB3LYP/6-31G*、真空中、絶対零度、モデル化なし

  • 関連製品: CASS(Computer Aided Synthesis)による受託研究

  • 参考文献:K. Hori ,H. Sadatomi, M. Aota, T. Kuroda, M. Sumimoto, H. Yamamoto, Molecule, 15, 8289-8304 (2010).