マイケル付加反応を用いたクロマン骨格化合物の合成に関する理論的解析

2011年7月1日
マイケル付加反応を用いたクロマン骨格化合物の合成に関する理論的解析

 マイケル付加反応は、α,β-不飽和カルボニル化合物に対してカルボアニオンまたはその他の求核剤を1,4-付加させるものであり、共役付加反応に属する。炭素骨格構築反応として、最もよく用いられているものの一つである。
 今回は、より抽出される薬理活性天然物である2,6-dimethyl chroman-4-one(1)を、マイケル付加反応により合成する経路について、密度汎関数理論(DFT)計算を用いた反応解析を行い、合成可否及び副生成物の予測を行った。

  • 計算対象のマイケル付加反応ルート michael_cheme

 22からの環の生成には、3つの経路が考えられる。一つ目は、22の酸素アニオンがカルボニル炭素を攻撃し四員環構造を形成し27を得る経路である。しかしながら本解析では、27の安定構造は得られなかった。二つ目は、二重結合をアニオンフラグメントが攻撃し5員環構造である28を形成する反応である。解析の結果、2822と比較して69.9 kcal mol-1不安定であると計算された。一方、三つ目の反応は1の前駆体であるとともに6員環構造を有する23を生成するものであり、活性障壁は20.4 kcal mol-1、6.8 kcal mol-1の吸熱反応であると計算された。

  • 反応解析計算結果から得られたエネルギーダイアグラム (kcal mol-1) michael_diagram

 DFT計算を用いた本解析の結果、4を用いたMichael反応は有望な経路であり、目的化合物1は合成可能であると予測された。実際に、メタノール溶媒室温条件下で、主生成物1を76.4%の収率で得ることができ、理論計算による合成予測の結果と一致しその有用性が示された。
 また、反応エネルギー、遷移状態構造、及び中間体の立体構造から考察することにより、Michael付加反応全体の反応機構を明らかにすると伴に、律速段階及び副産物生成のメカニズムも解明された。

  • 遷移状態構造の可視化 michael_3D

計算方法:計算レベルB3LYP/6-31G* 、真空中、絶対零度、モデル化なし 関連製品:CASS(Computer Aided Synthesis)による受託研究 参考文献:K. Hori ,H. Sadatomi, M. Aota, T. Kuroda, M. Sumimoto, H. Yamamoto, Molecules, 15, 8289-8304 (2010).